『科学する麻雀』とつげき東北著を読む

う~ん、すごい本が出来上がったもんじゃな。これはまさに画期的で前代未聞の麻雀戦術書といっていいかもしれん。

何を読んでいるんですか?

最近発売されて話題になっとる「科学する麻雀 (講談社現代新書) 」じゃよ。まさか講談社の現代新書から麻雀戦術本が発売されるとは夢にも思わなんだ。著者はとつげき東北というハンドルネームの方じゃな。

その本、日本橋の紀伊国屋でも平積みされてましたね。 どんな感じの本ですか? ちょっと教えてくださいよ。

そうじゃな。個々のことについては別で書くとして、ちょっと大枠としてどんな本かだけでも紹介しておこうか。乱暴にいってしまうと、今まで非常に曖昧だったことが、数字の裏づけをとることで、間違っていることがわかったり、より正しいことがはっきりした感じじゃな。




印象による誤解

ちょっとピンときませんね。数字の「裏づけ」ですか?

例えばよく言われたり信じられていることがあるとする。

「作家は短命で自殺しやすい」とかじゃな。思い浮かべてみると芥川龍之介、太宰治、川端康成、三島由紀夫、海外ではアーネスト・ヘミングウェイなど、名前ぐらい誰でも知っているメジャー作家で自殺したりするケースは目に付く。

そんなことを考えて「作家は自殺しやすいよね?」「そうだね」となるかというと、そうでもない。よく考えると谷崎潤一郎や志賀直哉なんて、天寿をまっとうしとる。作家全体の人口、売れている売れていないを関係なく考えると、自殺する人はごくごく一部なんじゃよ。ただ、芥川、太宰といった超メジャーどころが原因で、非常に「作家は自殺しやすい」という印象が残りやすい

他にも「最近の若者は平気で人を殺す」とかいった事柄も「ゲームが原因だ」とかなんとかいうが、実際に数字を調べてみると、戦後の若者の殺人率は低下していて、日本の若者は世界で最も殺人を犯さない、という結果が出ている。

ただ、昨今は非常にセンセーショナルな事件が多いから、メディアにとってもニュース性が高いわけじゃな。だから、頻繁に新聞やテレビでも見かける。頻繁に見かけると「最近の若者は平気で人を殺すなぁ」なんて思いがちじゃが、どちらかといえばそれは特殊なケースであって、その他大勢の若者は以前より人なんて殺さないわけじゃよ。

いや、博士…。それが麻雀といったいどんな関係があるんですか?

そう、そこが本題じゃよ。

そういったことを麻雀に置き換えてみるとじゃな「あいつはひっかけリーチが多いなぁ」とか「俺は南4局に強い」とか、個人的な印象から、今まで定説、定石とされてきた戦術があまり意味がないことだと証明できるわけじゃよ。

「リーチ後3巡以内にあがる確率は?」とか「相手が両面待ちのリーチである確率は、リーチ全体の何%なのか?」とか、そういったことを細かく調べあげている。そこから「統計学」という科学的なアプローチを使って結論を導きだしたのがこの本じゃな。

どうやって調べたんですか? 1回1回メモをとったんですか?

そう、そこがこの本のポイントになる。

方法としてはネット麻雀「東風荘」のデータを使用しているわけじゃ。以前はネット麻雀なんてなかったから、麻雀のデータを取るのは非常に難しかったわけじゃよ。自分があがった回数や着順ぐらいのメモはとれても、リーチ後何順以内にあがったかや、そのうち両面待ちの割合を調べるとか細かい部分は無理じゃった。ましてや相手の牌まで記録をするのは個人ではほぼ不可能じゃったんじゃな。

それが東風荘のデータと独自のツールを使って、こと細かいに調べられるようになった。ピンフに振り込んだ回数と、チートイツに振り込んだ回数の比較、追いかけてリーチされた時の結果など、すべて記録がとれるわけじゃよ。そうやって100回や1000回のレベルではなく、6万回におよぶゲームの中から収集したデータを元に、この本を書いておられる、ということじゃな。

そういう意味では、ネット麻雀の革命といってもいいかもしれんな。

曖昧だったことや、印象で感じていたことに数字の裏がとれたってことですか?多いと思っていたことが、調べてみたら少なかったり、その逆も。

一昔前の麻雀戦術本は、書いていることがけっこうバラバラで、何が本当なのかよくわからない部分も多かったんじゃよ。偉そうなプロの肩書きを持った強そうな人が個人の経験をベースに好き勝手に書く。本当に書かれている内容があっているのか間違っているのかは、誰も検証できないものじゃったんじゃな。根拠は? と質問すると「俺はその方法で勝ってきた」とか「これが私のスタイル」とか、そういうレベルの根拠も多かった。

もちろん、正しいことも書かれていたと思うが、同時に間違っていることも書かれていたはずじゃ。

その根拠になるような部分を数字で証明したって感じなんですね…。

ご本人も著書の中で言っておられるが、結果オーライではなく、なぜそうなったのか? 本当にそれでいいのか? という部分を検証する努力というのは必要じゃろうな。

例えばわしも言ったが「麻雀が強い人と一回だけの勝負をした場合、初心者が勝つことはそう珍しくもないと思う」というようなことでも、じゃあ「そう珍しくない」とは、実際にどれぐらいの頻度なのか? ということもこの本の中で解説されておる。「麻雀初心者は20年間無敗の男に勝てるか?」なんて、おちゃめな書き方をされておるよ

ここでいう「麻雀初心者」「20年間無敗の男」が、どれほどのレベルで、という部分をちゃんと定義して、運による偶然なども考慮すると、まあ、1回きりの勝負ならこれぐらいの確率で勝てるよ、という話も書いておるよ。

わしが「けっこう多いと思う」とか「あんまりないじゃろう」としか言えんことでも、こうやってデータがあれば、より具体的に、どのくらいの頻度で、どのくらいの確率で、というのが導きだせるわけじゃよ。ひょっとしたらわしの思い込みによる間違いだったなんて可能性も考えられる。数字の裏づけがあれば言葉にも説得力があるわな。

へえぇ。なんだか面白いですね。読んでみようかな…。

読んでみるのはいいことじゃが、実際、人によっては難しく感じる部分もあるかと思う。数式やプログラムに関してはわしもはっきりとはわからん。新書版で、ごく一般人向け、統計や数学がわからない人に配慮して書かれているのは確かじゃが、ルールを覚えたての「初心者」には難しいかもしれんな。

少し数式などの部分は理解しにくいという批判を受けて、わかりやすくリライトしたのが「おしえて!科学する麻雀」になる。こっちを先に読んでみてもいいかもしれん。かつては「超入門・科学する麻雀」というタイトルじゃったが、改題されて「教えて科学する麻雀」になっとる。同じ本なので「超入門科学する麻雀」と「教えて!科学する麻雀」は2冊もいらんので間違えて買わないように。

けど、よく考えたらこの「科学する麻雀」にも間違いが書かれている可能性だってありますよね?

そりゃそうじゃな。おそらく、今後、この本を否定する理論やさらに進化させた理論が出現することになるじゃろう。まだまだ掘り下げないといけない部分も多いじゃろう。良くも悪くも、いろいろな意味で引き合いに出されることになる本じゃな。麻雀戦術のターニグポイントにはなる本じゃとわしは思う。画期的ですばらしいぞぃ。

こういった統計学を含む科学的なアプローチは何も麻雀だけではないんじゃな。

野球の世界でも、バッターの打点やピッチャーの勝利数の評価を低くして、四球も含めた出塁率を評価し、野球を科学的に分析する「セイバーメトリクス」という手法が近年は注目を浴びておる。興味がある人は「マネー・ボール (RHブックス・プラス)などを読むといいじゃろう。

にしても…
先を越されたって感じじゃな。悔しいぞぃ。

博士もそんなことやろうとしてたんですか?

そのために、あのバカロボットがおったはずなんじゃが…。とつげき東北くんには興味があるなぁ。今度、呼んでぜひお話を聞いてみよう!!


おしえて!科学する麻雀 科学する麻雀 (講談社現代新書)

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